ペラペラの着物を憂うよりも、ポリ着物の進化を願おう
昔は私も思ってました。
「あんなペラペラな着物を着せられてかわいそう」
心境は変化するのが常。
どうも、うねうねです。
業界の内外問わず、否定されることが多いペラペラの着物。
そんなペラペラ着物に思うこと。
徐々に変わってきましたので、ここらでまとめてみたいと思います。
写真無いです。長いです!
目次
- ペラペラの着物って?
- ペラペラの着物の質の悪さは百も承知?
- それでも「選ばれている」という事実
- 伝統としての「着物」とファッションとしての「キモノ」
- だから売れないってほんと?
- ペラペラ着物の善と悪
- ポリ着物の進化を願おう
- 自分が理解できないものを否定しないこと
- まとめ
- 参考リンク
- 関連記事
ペラペラの着物って?
一般的には洗える着物、ポリエステル等の化学繊維で生地が薄い安っぽいものを指します。ちょっと偏見も混じってますが、格安着物レンタルで使われているような。見ための色柄や質感からも素人目で安っぽさが分かるレベルのもの。
ペラペラ着物って万人に共通する単語なの?ってくらい何を指してるかすぐに理解される言葉。マジで特に着物に興味があるわけでもない一般の方にも通じます。
観光客に人気の着物レンタルの話題とか、ふとした時に
一般ピープル「あーあれでしょ!あのペラペラのやつ!あれはビミョーですよね〜」
なんて。ガチで言われます。
私「えぇ...まぁ...」
とこっちが怯むほど。
ペラペラの着物の質の悪さは百も承知?
なんかね。私も誤解してたんですけど、着物のことよく分からない人達が、半ば騙されて着せられてる気がしてたんですよ、ペラペラの着物。もちろん、そういう側面もあると思うんですけど、たぶんそれだけじゃない。
一般の人が遠目から見ても揶揄するくらいの代物なのです。観光地で乱立してる着物レンタル3000円とか、どう見ても安さをウリにしてるワケで...。
気付いてるんです、おそらく。
質がそれなりってことに。
高級品じゃないってことに。
洗える消耗品だってことに。
そんなに消費者はバカではありませんから。
それでも「選ばれている」という事実
ペラペラの着物。
質は値段の安さなりで、まぁ良いとは言えないけど。
それでも、選ばれているという事実。
旅の一コマとして楽しむためという目的とか。
かけられる予算とか。
それぞれの事情によって、それなりに納得して選択してるはず。
格安着物レンタルなどはそれこそ、
着物を着ることが一番の目的ではなくて
旅を楽しむ中の一要素としての「キモノ」なワケです。
1万円で質の良い着物をレンタルするというのも一つの選択。
3000円でそこそこの着物をレンタルして、7000円で旅先の美味しいものを食べ歩く、というのも一つの選択。
別にどっちが良いとか悪いとかではなくて。好きな方を選べばいい。
もしくは、
着物を始めたビギナーさんが練習用・お試し用としての目的で買うかもしれない。
着物に慣れるための第一歩としての初期費用はそんなにかけられない。ある程度慣れて、知識がついてから、きちんとした着物を買いたい。そんな第一段階にいる人に必要かもしれない安価な「キモノ」。
着付けが慣れない時って、扱いが下手で着物を傷めてしまうこともあって。
最初は気負わずにガシガシ使える「キモノ」を選ぶのも大アリ。
この時に安いリサイクル着物を買うパターンと、安い新品着物を買うパターンがあるけども。後者の方が否定されやすいのはなんでだろう。
身長高い人や古着に抵抗がある人はリサイクル品で探すのは難しいし、必然的に選択肢が絞られるという事情もあるのに。
人によって、場合によって、それぞれの事情で。
ある意味シビアに選択されていると思うのです。
ペラペラの着物。
伝統としての「着物」とファッションとしての「キモノ」
以前からちょこちょこと書いてはいますが、着物を「伝統」と「ファッション」、どっち寄りで語るかで、意見がガチャガチャすることが多い気がします。
着物を「伝統」寄りの目線で見ると、
これまで受け継がれてきた素晴らしい伝統技術を後世に残したい。
素材、織り、染めの技法。職人の手仕事。
それらが素晴らしいのはよく分かります。
職人の高齢化、後継者問題、伝統技術を使った高価な着物が売れない…。
業界のド真ん中で試行錯誤してる方だけが分かる、憤りもきっとあるのだろうと。
だからこそ、業界の中でペラペラの着物を嘆く声が多い。
着物を「ファッション」寄りの目線で見ると、
自分が気に入ったデザインを身にまとって、気分を上げることが優先される。
自分なりにコーディーネートを考え、楽しむのが魅力。
で、このコーディネートスキルを上げるため&自分に似合う・似合わないを判断する力をつけるためには、”とりあえず色んなモノを試してみる時期”が必要なワケで。
そんな時に役立っているのが、安価なペラペラの着物かもしれない。
ケース・バイ・ケースの選択肢のひとつ。
ファッション(洋服)において、プチプラ商品でコーデを楽しむのは、好意的に受け止められることが多いのに、何ゆえ着物では否定されるのかしら。
ユニクロやしまむらやH&Mでファッションを楽しんでる層に向かって、
「なぜもっと質のよい服を買わないんだ。値段は多少張るが、上質な生地を使ったオーダーメイドの服は素晴らしいし、長持ちするのに!」
とダメ出しする行為の不毛さ。
同じ類いの違和感を、ペラペラ着物を否定する人達から感じてしまうのです。
だから売れないってほんと?
ポリエステルの着物が出てきたから。インクジェットの着物が安いから。
だから、高価な伝統的な技術の技法の着物が売れない。
ほんとに?
そんな単純な話なのかなーと疑問です。
じゃあ、今、ポリやインクジェットの着物が世の中から無くなったとしたら、
ポリを買ってた人達は、高価な伝統的な着物を買うようになるのかな?
昨年ブームになった「逃げるは恥だが役に立つ」の百合さんのセリフ。
コレは恋愛上の話だけど、ふと思い出してしまいました。
「この人がいるから、私は選ばれないんだ!」
「いなくなったら、あなたは選ばれるの?」
というやり取り。結構キツイですね。
選ぶ方もそんなに単純じゃないでしょ、というツッコミ。
脱線しましたが、着物に戻って。
百歩譲って、ポリやインクジェットの着物を知らない時代だったら。
そういう選択肢がなかったら、選ばれていたかもしれない。
でももう、知ってしまった。
時代は進んでしまった。
ポリ着物を今から”無かったことにする”なんて出来ないし、
そんなポリ叩きに必死になるなんてそれこそ不毛。
同じ業界内で叩き合ってるのって、外からみてると割と滑稽で。
内容は伝わらずに、不穏な空気だけが伝わってしまう。
面倒くさそうな業界だなーなんてイメージがついたらマイナスでしかない。
例えば、他業種。日本酒業界で、冷酒派と燗酒派がお互いバチバチけなし合ってるとか言ったら「何それ?」って思いませんか。(実際そういう事例があるんですよー)
知らん人からしたら、いや、どっちも飲めばいいやんって思いません?
ペラペラ着物の善と悪
ペラペラの着物は、ある点だけで見れば、職人の仕事を奪う「悪」かもしれない。
でも、ペラペラの着物がなかったら、こんなに着物レンタルが拡大することはなかったはず。「着物を着る体験」を増やすという点で見れば、かなり貢献してるんじゃないかと思います。
また、最初は安いものを手に取った人でも、やっぱり多少値が張っても質の良いものを買いたい!と考えが変わる人もいる。
実際、1000円とかのリサイクル品から入った私が、今じゃ着物を仕立てで買うクラスタの仲間入りしてるし。
中古指向から徐々に新品指向になってきたし。
きれいなグラデーションを描いて、着物沼の深みにハマっております。
そのうち、ペラペラとバカにしていた着物の質が上がって、ペラペラじゃなくなるかもしれない。格安レンタルで儲かっている店が資金力をつけて、上質なポリ着物をラインナップに加えるかもしれない。着る方もみんな目が肥えてきて、質のいい着物レンタルにも目が向くかもしれない。
たぶん、状況は変化していくはず。
伝統技術を守るのは大事だけど、その為に別の何かを潰しにかかってたら、
伝統技術がなくなる前に、着物着る人がいなくなるんじゃないの?
そんな本末転倒な結果にならないことを願うばかり。
どっちが善とか悪とか。
そんな極小点でばかり見てないで、たまにはもっと点を滲ませて、
広い視野で見てくれーー。
ポリ着物の進化を願おう
で、ネガティブ側の意見はその辺にして。
私はそのうち、ペラペラの着物もどんどん進化を遂げていくのではないかと思ってて。
いや、安いペラペラ着物はそのままあるとしても、化学繊維の着物としてはもっと色んな進化が期待できるのではなかろうかと。
今だって、シャカシャカ滑る、生地が薄い、静電気ハンパない、アイロンかけづらいとかデメリット満載だけどとにかく安いポリ着物と、
しっとり滑らか絹に近いような質感、デザインも美しいっていう高級ポリエステル着物の両方が混在してたりします。
値段は10倍くらい違うけどね!
前者は3000円くらいだとして、後者は3万円以上。
後者の高級ポリ着物も、デメリットが完全に消えたわけではなく。
某有名ブランドのセオαの着物が、アイロンの熱で溶けたのを目撃したこともあります。高温には絹の方が強いんですよねー。
それでも、攻めてる着物ブランドの新作とか見に行くと、多種多様な素材があってほんとにワクワクするのです。
単純に、絹とか綿とかポリエステルとかという話ではなく。
交織(たて糸とよこ糸が違う)もあるし混紡(違う素材を混ぜた糸)もある。
ポリエステルにしたって、東レのシルック・シルジェリー、最近話題のセオαなど。
今後、もっと違う繊維が出てくるかもしれない。
染めだって注染かインクジェットか、どっちが良い悪いとかいう話でもなく。
それぞれに良いところがあるし、素材と染めの組み合わせもいろいろ。
アンティーク着物の繊細な色合いが好きな人もいれば、プリント着物の分かりやすいハッキリした色合いが好きな人もいる。
好みの違い。
いや、癖(ヘキ)の違いです。フェティシズム的なやつ。
お願いだから、癖の選択肢を奪わないでーーー。
注染もポリもどちらも着たいし、場合によって使い分けしたい。良いところも悪いところも自分で試してから決めたい。
— うねうね@5/27-28着物フリマ長崎 (@uneune_line) 2017年5月16日
着物ユーザにとって、どっちが楽しい?
伝統技術とどう擦り合わせる?
共存の道は?
今はまだ、ややこしい問いですが。
繊維の進化か、染めの進化か、はたまたクリーニング技術の進化か。
可能性があるならば、私は進化を願いたい。
自分が理解できないものを否定しないこと
着物の裾野を広げるために必要なのは、「ホンモノ」以外を否定することではなくて。
自分が理解できない「トンデモ」なものでさえ、そういうものもあるよね、と受け入れる覚悟を持つこと。
じゃないと、広がっていきません。しんどい。
ただでさえ、ルールがややこしいとか、崩して着たら注意されるとかいうイメージがついてるのですよ、着物って。
私だって、いまいち良さが分からないなーと思う着物や着物コーデはあります。
そういう時は、
「きっと私とは癖(ヘキ)が違うんだな」
と思うようにしてます。
伝統云々言ってみたって、人の癖は変わらない。
こっちの正義でねじ伏せるのはやめとこうって話です。
まとめ
「ペラペラの着物」って言葉を使いすぎて、むしろ愛着が湧いてきました。
思いのほか長文になったけど、まとめ。
ペラペラの着物。
あえてそこを否定するのではなく。嘆くのでもなく。
変わりに自分が思う着物の良さを語ったり、
自分なりの着物の楽しみ方を表現したり、
着物の新しい可能性を探ったり。
そうやって、じわじわ着物好きを周りに伝染させること。
着物の進化を諦めないこと。
着物を楽しめる環境をどうやって作って行くか。
どうせ時間を割くならば、
否定よりもそっちに注力していきたいなーと思う次第です。
参考リンク
このペラペラ着物については、今までも何度も色んな人が議論の的にしてきた代物です。数年前までは、私も否定的な意見を持っていましたが、それから時が流れて、今回書いたような意見に変わって行きました。
大塚呉服店さんのブログにも詳しく。ちょっと激しめに書かれています。
デザイナーさんのツイートから派生した議論。